進展の著しい人工知能(AI)技術であるが、真の価値創造を実現するには、AIを社会に適合するものに向けて、同時に、社会をAIを受容できるものに向けて進化させていかなければならない。本シンポジウムでは、まず、招待講演として、産業技術総合研究所人工知能研究センター・研究センター長の辻井潤一先生に近年の人工知能技術の発展動向を概説していただく。その上で、「社会に信頼される人工知能」と「人工知能を信頼できる社会」とに焦点を合わせた6つの多彩な講演を通じて、AIによる価値創造に関する議論を深めたい。

プログラム

13:00〜13:10
開会挨拶

枝廣 正人

名古屋大学 大学院情報学研究科長・情報学部長

松尾 清一

東海国立大学機構長・名古屋大学総長

13:10〜14:00
招待講演

辻井 潤一

国立研究開発法人 産業技術総合研究所・産総研フェロー、人工知能研究センター・研究センター長

人工知能研究の最前線:産総研AIRCの研究を例に

AI技術は、「人間の能力を超えるか」といった一時期の喧騒から、DXを支えるIT技術の中核として社会の幅広い分野に浸透し始めている。従来のITは、タスクの実行手順を人間が把握してシステムを構築することを基本にしていた。これに対して、AI技術は計算手順をデータから学習し、自ら手順を作り出す。この2つが融合した技術が現れつつある。講演では、この観点から「人間と共進化するAI」について議論する。

略歴

1973年京都大学大学院修了。工学博士。京都大学助教授、マンチェスター科学技術大学教授、東京大学理学部教授、同大学院情報理工学系研究科教授。マンチェスター大学教授を兼任し2005年にマンチェスター大学国立テキストマイニングセンターセンター長に就任。マイクロソフト研究所(北京)アジア首席研究員等を歴任し、2015年より現職。マンチェスター大学教授兼任。東京大学名誉教授。国際計算言語委員会会長 専門分野は、AI, テキストマイニング、計算言語学、機械翻訳、言語処理学。 紫綬褒章、大川賞、IAMT(国際 機械翻訳協会)栄誉賞、2021 ACL Lifetime Achievement Award等受賞多数。ACLフェロー、IPSJフェロー。

14:00〜16:30 セッション1

社会に信頼される人工知能

藤吉 弘亘

中部大学工学部ロボット理工学科、AI数理データサイエンスセンター・教授

深層学習における判断根拠の視覚的説明と活用

深層学習の判断根拠を可視化する視覚的説明は、判断根拠を可視化できるだけでなく、認識精度を向上させたり、人の知見を組み込むことで人にとって扱いやすいAIを実現することができます。本講演では、深層学習の視覚的説明とその活用について紹介します。

略歴

1997年 中部大学大学院博士後期課程修了、1997年 米カーネギーメロン大学ロット工学研究所Postdoctoral Fellow、2000年 中部大学工学部情報工学科講師、2004年 中部大学准教授、2005年 米カーネギーメロン大学ロボット工学研究所客員研究員(~2006年)、2010年 中部大学教授。 ロボカップ研究賞(2005年)、情報処理学会論文誌CVIM優秀論文賞(2009年)、情報処理学会山下記念研究賞(2009年)、画像センシングシンポジウム優秀学術賞(2010, 2013, 2014年)、電子情報通信学会 情報・システムソサイエティ論文賞(2013年)、MIRU長尾賞(2019, 2020年)他。

森 健策

名古屋大学 大学院情報学研究科・教授
名古屋大学情報基盤センター・センター長

信頼される医療AIの実現を目指して

本講演では、信頼される医療AIを目指し、様々な技術開発を紹介する。人工知能(AI)技術は、世の中の様々な場面で利用されている。医療分野も例外ではない。しかしながら、診断治療の場面において求められるAIには、医療の特性を考慮する必要がある。そこで、信頼される医療AIとは何かを考えながら、講演者らのグループにおける研究を紹介。

略歴

1992年3月名大・工学部・電子卒、1994年3月名大・工学研究科・情報・修士課程,1996年9月名大・工学研究科・博士課程修了・博士(工学).1996年10月JSPS特別研究員PD、1997年名大・工学研究科・助手、2001年、名大・難処理人工物研究センター・助教授・2003年名大・情報科学研究科助教授、2009年名大・情報連携統括本部教授・2016年名大・情報基盤センター長、2017年名大・情報学研究科・教授,現在に至る。

福島 俊一

国立研究開発法人 科学技術振興機構
研究開発戦略センター・フェロー

「信頼されるAI」の技術潮流と日本の競争力

「信頼されるAI」の技術潮流を、(1)AI応用システムの開発方法論、(2)人間の意思決定とAI、(3)AIのアーキテクチャそのものの進化という3面から俯瞰する。さらに、それを踏まえて、AIの研究開発や産業における日本の国際競争戦略を考える。

略歴

1982年東京大学理学部物理学科卒業、NEC入社。以来、中央研究所にて自然言語処理・サーチエンジン等の研究開発・事業化および人工知能・ビッグデータ研究開発戦略を担当。工学博士。2005~2009年NEC中国研究院副院長。2011~2013年東京大学大学院情報理工学研究科客員教授。2016年4月から科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。1992年情報処理学会論文賞、1997年情報処理学会坂井記念特別賞、2003年オーム技術賞等を受賞。情報処理学会フェロー。

武田 浩一

名古屋大学 大学院情報学研究科・教授
価値創造研究センター・センター長

信頼できるAIのための自然言語処理

信頼されるAI、特に説明可能性を有するAIについて、自然言語処理の立場から考察し、その技術的な可能性について検討する。自動運転分野のリスク査定業務を事例としてとりあげ、リスク要因を説明する文生成技術について紹介する。

略歴

1983年京都大学大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了。1983~2017年まで日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所にて自然言語処理研究に従事。2017年4月名古屋大学大学院情報学研究科附属価値創造研究センターにセンター長・教授として着任。現在に至る。情報処理学会フェロー。

16:30〜17:40 セッション2

人工知能を信頼できる社会

山田 胡瓜

漫画家

SF漫画家が考えるAI共生社会

ヒト、人権を持ったヒューマノイド、道具としての産業用AIなど、多様なAIが存在する空想世界を描いてきた漫画家が、創作の中で見えてきたAIと人間の「共生」の課題や展望を、作品のエピソードなども交えながら話します。

略歴

IT記者としての活動の傍ら作品を書き続け、2012年、『勉強ロック』で「月刊アフタ ヌーン」アフタヌーン四季大賞を受賞。2013~2015年に「ITmedia PC USER」に連載 した『バイナリ畑でつかまえて』で注目を集める。2015~2017年に「週刊少年チャンピオン」で連載された『AIの遺電子』は、人間そっくりのヒューマノイドを治療する医師を主人公にした、AIと人の関係を描く近未来SFコミックとして、各方面に大きな反響を呼び、2018年に第21回文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞を受賞。2017~2019年には「別冊少年チャンピオン」にて『AIの遺電子RED QUEEN』を連載。2020年からは同誌にて『AIの遺電子 Blue Age』を連載中。

戸田山 和久

名古屋大学 大学院情報学研究科・教授
名古屋大学教養教育院・院長

「幸せな未来社会」とはどのような社会だろうか?
それをどのようにして考えたらよいのだろうか

AI・ロボットにかぎらず、科学技術開発の究極目標は「幸せな未来社会」をつくること。そして、そうした大きな目標からバックキャストしてはじめて根本的なイノベーションはなしとげられる。ここまではいいのですが、「幸せな未来社会」ってなんでしょう? また、どのように頭を働かせればこの問いをうまく考えることができるのでしょうか? こうした問いについて素朴に考えてみたいと思います。

略歴

1989年東京大学人文科学研究科単位取得退学。1989年より名古屋大学に勤務。現在、名古屋大学情報学研究科教授、名古屋大学教養教育院院長。